スチームパンクな木製宝箱をつくる作業工程解説、第三弾! 歯車設計編について各工程をわかりやすい写真とともに詳しく解説いたします。動画もあります!
スチームパンカーとしてクラフトするなら、せっかくだし歯車も自作しちゃおう!……という、謎の熱意と労力の賜物をご覧くださいませ。
ちょっと長いですが、順番に進めれば確実に歯車を設計できますので、騙されたつもりで一度お試しあれ!
ちなみに今回は、アドビの「illustrator」を使用しています(フリーソフトや手描きでもできます)。
歯車を設計するための公式
突然ですが、わたくしPOCHIは歯車が大好きです。でも、算数は小学校で諦めるくらい苦手です。

数字見るとこんな顔になっちゃう
ただ今回は……カワイイ歯車たちのために、頑張ります!
題して『犬でも描ける⁉ 犬小屋式歯車設計』!!
ということで、いろいろ調べて以下のような公式と計算チャートをつくりましたのでご覧ください!
各公式の説明
【公式】
・直径=歯数×M
・全歯たけ=2.25M
・M=ピッチ÷π 圧力角=20°
・歯底円直径=基礎円÷100×97.75
・ピッチ=ピッチ円直径×π÷歯数
結論から言います。この公式、そして計算チャートがあれば歯車が設計できます!
詳しい説明や理論の解説なんかは、要所要所省きます。用語も、文系の自分が一生懸命かみ砕いて平易な表現を使いますので、厳密には工業用の設計と微妙に違っている可能性があります。ご了承ください。

各部名称。覚えなくていいですが、気休め程度に眺めてください。
それでは、各公式の説明をしていきます。
直径=歯数×M
「直径」は分かりますね。ここで言っているのは、歯車設計の基準になる円の直径です。出来上がりはこれより少し大きくなります。
次は「歯数」。自分がその歯車の歯を何本にしたいか決めて、自由に入れていい数字です。ただし、あんまり多くても少なくても回りにくくなります。ご注意。
そして「M」。モジュールという言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。これはざっくり言えば〝歯車の歯一本ぶんの形〟という単位を指しています。
全歯たけ=2.25M
「全歯たけ」というのは、歯の全長です。モジュール(歯のサイズ感)に合わせて歯の長さが変動するというわけですね。その目安が2.25倍。
M=ピッチ÷π
「ピッチ」というのは、歯と、歯同士の間にある溝を合わせた幅です。凸と凹で一セットというイメージです。
「π」は割愛!
圧力角=20°
「圧力角」ですが、これは、歯車同士が噛み合うときに、効率的に圧力が掛かるように考えられた角度です。これと、あとで説明する「インボリュート曲線」を組み合わせることで、ほぼ歯の形は決まります。
歯底円直径=基礎円÷100×97.75
「歯底円直径」とは、さっきの「全歯たけ」の底辺にあたる部分です。歯の付け根。それが、最初に出てきた「基礎円」の97.75%サイズだよって話です。
この数字、実は自分が独自に(勝手に笑)出したものなので、より正確な歯車を描きたいという人はご自身で計算してみてください。
ピッチ=ピッチ円直径×π÷歯数
「ピッチ円」というと難しそうですが、要は基礎円と完成した歯車の外周との中間ポイントを指します。この円を基準として、歯数によりピッチが変動していくということです。
歯車設計用チャートを作りました!
・歯数=_
・基礎円直径=_mm
・全歯たけ=_mm(有効歯たけ=_mm、頂げき=_mm)
・ピッチ円直径=_mm(基礎円直径_mm+有効歯たけ_mm)
・歯底円直径=_mm
・ピッチ=_mm
これは、個人的に作ったチャートです(笑)
数字が苦手な人でも、この空欄に数字を当てはめていけば、実に歯車を設計することができるスグレモノ。よかったらコピペして使ってみてください!
それではこれから、公式とチャートの具体的な使い方を交えながら、歯車設計をしてみましょう!

純然たる歯。
歯車設計①~円~
計算といっても、電卓と小学生程度の算数の知識で充分ですから、安心して試してみてくださいね。
基礎円
「M」「直径」の設定
まずは「M」と「基礎円」を決めます。今回は以下のように設定しました。
基礎円直径=120

基礎円を描いたところ。Mは1が最強なので(=どんな数でも割りきれるため)、そちらで試しても◎
「歯数」の算出
Mと(基礎円の)直径が決まったので、
120=40×3
歯数=40
歯が40枚ある歯車をつくればいいということが分かりました。
基準になる穴用の円
それと予め、歯車の中心に空ける穴の設定をしておきます。基礎円が120mmに対して、だいたい1.5mmくらいでいいかと思います。

軸用の穴を描いています。これがないと、回らないよ!
歯底円
歯底円を求めます。上から4番目の公式を使い、値を求めます。
=117.3
117.3mmの円を、基礎円にかぶせるように追加します。
計算して分かった数値は、チャートに随時書き込んでいきましょう。

↑のように、画面上にコピペしたチャートや公式表を貼り付け、そのつど数値を埋めよう
全歯たけ
「全歯たけ」は、二つ目の公式を使い、
=2.25×3
=6.75
歯の長さが6.75mmとなります。
この2.25Mとかいう、取りつく島もないような公式って怖くありません? 自分は「なんでこうなるのか」が分からないと先に一歩も進めない性格なんです。
「こういうものなんだよ」っていう説明、本当、何の意味もないからな!!
って毎日思ってました、中学の頃(笑)

全歯たけを可視化。忸怩たる思いで悟る、公式とは「そういうもの」なんや…
「有効歯たけ」の算出
全歯たけが分かったら、上の図のように直線ツールで同サイズの線を引きます。少し太めがいいですね。
それを今度は、歯底円の頂点へぴったりと乗せます。すると、全歯たけの下から1/5くらいのところに基礎円が横切っているかと思います。
基礎円より上に来ているのが「有効歯たけ」、下にあるのが「頂げき」となります。
全歯たけをコピペするなどしてもう一本の直線をつくり、分かりやすい色に変えてから有効歯たけのサイズに合わせましょう。

全歯たけ(黒)の上にもう一本の線(ピンク)を重ね、基礎円とぴったり重なるところまで短くしていくと…これが有効歯たけ
ちょっとアナログになってしまいますが、面倒な計算もいらないので、数字ニガティストには助かる仕様です(笑)
ピッチ
「ピッチ円直径」の算出
ついでに、有効歯たけの中心を通る円「ピッチ円」の直径を求めておきましょう。
中心ということなので÷2したくなるところですが、求めるのは直径なので割らなくてOKです。
=120+5.4
=125.4
125.4mmのピッチ円を追加します。今のところ、円が三つ重なっていればOKです。

惑星の周回軌道のような三つの円。内から「歯底円」「基礎円」「ピッチ円」
「ピッチ」の算出
ピッチ円直径さえ出れば、ピッチを求めるのは簡単です。
125.4×3.14=393.756
=393.756÷40
=9.8439
≒9.844
「ピッチ」の配置
9.844mmの円を描きます(ピッチを表す円)。
その円の中心を、「有効歯たけ」と「ピッチ円」の交差したポイントにぴったり乗せます。
これが、歯の形をつくるためのベースになります。

「ピッチ円」というのはつまるところ、この「ピッチ」が40個つながったものなんだな!
ここまで、いかがでしょうか?
うまくいっていれば、計算チャートは既に全て埋まっているはずです。もし空欄があれば、その項目を目次から引いて、もう一度計算してみてください。
歯車設計②~インボリュート曲線~
さてさて。インボリュート曲線、来ました。これは「きちんと噛み合う歯車」にするための最重要項目です。
自分としては、この世に産み落とされる歯車には、みんなきちんと噛み合って回ってほしい……と思っているところがあるんです。そのための一工夫だと思って、少しの間お付き合いください。
手描きの場合は簡単
インボリュート曲線は、手描きだと一瞬で描けます。
まず、手元にある円筒形のものに円周と同じくらいのヒモを巻きます。ヒモの端にペンを結びます。それを紙の上に置き、ペンをぐいーっと走らせれば……あーら不思議、その線がインボリュート曲線なのです!

ぐいーっと、ヒモに導かれて簡単に描けます、インボリュート曲線。一度試してみてね
データ上でやるには手順が大事
アナログでやるには簡単なのですが、データ上でやるには少し手間がかかります。
ただ、ここまで来れば歯車づくりも佳境ですから、ぜひ諦めずにチャレンジしてみましょう。手順が結構細かいので、落ち着いて一つずつ取り組んでくださいね。
下準備
いきなりインボリュート曲線を描くことはできません。下準備が必要なので、順番にやっていきましょう。ちなみに、以下に「円」と書く場合は基礎円(内側から二番目)のことを指します。
- 円の中心を通る水平線を描きます。
めちゃくちゃズームしています。この円は軸用の「小さな穴(1.5mm)」ですよ~
- 「線を11.25°ずらしてコピー」を繰り返し、一周分行います。
中心をよく見て、回転ツールのマーカーを置く。意外とシビア!
- 16本の線を引くと、放射状に32本の線が出ているように見えます。
11.25°ずつ回転した線が32本。ぱぁ~っと広がって、ぴゃ~っとキモチイイ瞬間
・まず円の中心にズームして、微調整ができるようにしておきます。
・水平の線を選択しておいて、回転ツール(ぐるっと矢印)を持ちます。
・水色のマーカーが出てくるので、円の中心(=水平の線との交点)を狙って「Alt」+「Enter」でロックオン。
・出てきた操作パネルに「11.25」と入力し、「コピー」を実行
・あとは「Alt」+Dを連打すれば、同じ操作が繰り返されます。
「Alt」+D連打は便利なので、手癖がつくくらい練習するといいかもしれません。自分はこのとき初めて使い方を知りました(笑)
直線を引く
今たくさん描いた線は、次の直線を配置するときのマーカーとして活躍します。
垂直線を引く
まずは一本、垂直線を描きます。色を適当につけて見分けやすいようにしておきましょう。長さは基礎円周1/4。
=376.8
376.8÷4=942
942mmの垂直線を、時計でいう3時の位置に立てます。このとき、円と水平線の交点に、垂直線の端がぴったりついている状態にしましょう。

垂直線を水平線にぴったりつける。初期のセーラーマーキュリーみたいになってたらOK(世代)
三本の線を引く
垂直線を左へ45°回し、コピペします(下準備の手順を参照)。このとき、基準点はやはり円の中心です。
そして、その線をさらに22.5°回し、さらにその線をもう一度11.25°回します……伝わりました?(笑)とりあえず、線が4本になっていたら先へ進みましょう。

線はだんだん緩やかに倒れていきます
線の長さを調整
最初の線を基礎円周の1/4の長さにしましたよね。そこで、45°に回した線はそこからさらに1/2にします。次にコピペした線は1/4、そして最後の線は1/8のサイズにします。
そして、以下の位置に配置していきます。必ず、放射状のマーカーと基礎円との交点に触れます。

線と触れているのは、基礎円
線②=942÷2=471mm(1:30の位置のマーカー)
線③=471÷2=235.5mm(12:45の位置のマーカー)
線④=235.5÷2=117.75mm(12:22と30秒の位置のマーカー) 計4本
半分、また半分……と4回やるので、マーカーの線が8本必要だったというわけですね。
曲線を引く
そしていよいよ曲線を描きます!(※イラレのやり方です)
- 垂直線の頂点から基礎円の頂点まで、一本の直線で繋ぎます。
- 直線を選択して、アンカーポイントツールに持ち替えます。
- 垂直線の方は左向きのハンドル、基礎円の方は上向きのハンドルのみを伸ばします。
- それぞれのハンドルが平行&垂直を保った状態で、さっきの線に沿うよう調整します。
- 完成!

垂直線側のハンドルは水平に、基礎円側のハンドルは垂直に。もどかしくても、必ず合うポイントがあるので頑張れ!
ちょっと面倒ですが、これでインボリュート曲線は完成しました! 下準備で使った線は全て消して大丈夫です。
アンカーポイントツールに準じた機能がない描画ソフトの場合は、より細かく線を引いていけば近いものがつくれるはずです。
歯車設計③~歯の成形
ここまで来ればあと一歩です。ファイッ!
インボリュート曲線の配置
インボリュート曲線を所定の位置へ配置します。
- インボリュート曲線を、基礎円の中心を基準にして左へ少し回転させます。
- 歯の基準になる円(9.844mmのやつ)の左端と接するところで止めます。
インボリュート曲線が、基礎円の線上をツツーッと移動していきます。
- 曲線を反転ツールでコピー反転し、今度は右端と接するところで止めます。
一本目と傾きは同じなので、角度などはいじらず丁寧に配置しよう
小さな円を支えにして、竹の棒が左右からしなる感じになっていればOKです。
歯の成形
歯の形状をつくるので、ズームをして行いましょう。
水平線を乗せる
全歯たけの頂点に乗せるように、水平線を一本引きます。

円ではなく、全歯たけの頂点なので間違えないように! 線の長さは気にしなくてOK
バックラッシを追加
「バックラッシ」と呼ばれる、歯のかみ合わない部分を描き足します。
インボリュート曲線は基礎円を基準にしましたが、その内側にある歯底円まで歯は続いています。ここは〝遊び〟の部分なので、インボリュート曲線からある程度なめらかに続いているように見えれば適当で構いません。

バックラッシだけ急に雑でごめんなさい(笑) 気になるひとは、下を少し外ハネさせるといいです。
シェイプ形成
歯の形に関わる全てのオブジェクトを選択し、シェイプ形成をします。どこを選択していけばいいかは見れば分かると思いますし、問題がなければ一発で形成できます。

シェイプ形成中…

ぱっ! 歯車の歯の形になった!!
できた!!
歯車の量産手順
おめでとうございます。歯車は90%完成していますよ!(海外通販サイトのグー〇ル翻訳みたい)
とりあえず、今完成した「歯」をコピーして安全な場所(計算チャートのM数値の隣など)に保管してください。
これは、Mが同じであれば他のサイズ(基礎円直径)の歯車にもそのまま使えるのです!!スバラシイ!

この歯はもはや財産。忘れないうちに、他の数値でもつくっておくといいでしょう。
まずは一つつくってみよう
今しがた格闘していた図形から「歯底円」と「穴用の小さな円」そして「歯」を取り出します。
歯底円の頂点に歯を乗せ(気持ちめり込む程度に)……

歯の配置。この図では、バックラッシが少し丁寧に手直しされてる…(笑)
円の中心を基準にして、歯を生やしていきましょう。今回は「歯数=40」なので、
ということで、9°に設定してコピー! 「Alt」+D連打!!!

連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打!!!!!!!!
全てを選択してパスファインダーもしくはシェイプ形成で、一つの形に合体させます。

歯車完成の図。感動~!! おつかれさまでした!!!
完成!!
同じ手順で何個もつくれる!
この方法のすごいところは、先述した通り他のサイズの歯車をつくることもできるという点です。手順は簡単♪
- つくりたい歯車の歯数を決めます。
※基礎円は小数点でも対応できるので、とりあえず歯数を先に決めましょう! - 公式に沿って(Mは固定なので)基礎円直径を求めます。
- 歯底円直径をサクッと計算します。
- 算出した数値の円にさっきと同じ手順で歯を生やせば完成。
人によっては、最初から歯底円直径の方を120などの整数でやった方が楽かもしれませんね。いろいろ試してみてください。
あと、今導き出した「歯数」「基礎円直径」「歯底円直径」はセットでメモをしておくといいですよ。

こんな感じでストックしておくと、あとあと使いやすいのでは!
サイズ変更もできる!
応用として、できた歯車のサイズを変えることもできます。当然といえば当然なのですが、同じMの歯車を全てセットにしてサイズ変更する必要がある、というのだけ頭に入れておいてください。
大きな歯車も小さな歯車も、これで安心してぐるぐる回せますね♪
模様つけは自由に!
模様つけにルール不要! お好きな模様を心のままにどうぞ!

この図では、レーザー加工機のマニュアルに準じて、線の太さや柄の色を調整しています。詳しくは次回。
ただ、あまり凝ったものをデザインすると、出力に時間がかかってしまいます。あまりこだわらないのであれば、模様なしというのも手です。
POCHIは、きまぐれに自分のロゴを入れた歯車をつくってみました。机に置いておくだけで画になるので、こんなのもオススメです。
ロゴ入り歯車はいかが?#スチームパンク #steampunk #犬小屋クラフト #inigoyacrafts #レーザー加工機 pic.twitter.com/FotMFExny0
— スチームパンク家具工房【犬小屋軒】 (@inugoyasteam) January 25, 2022
出力に関しては別記事で
出力に関しては注意事項や実際の体験もお話ししたいので、別記事にて上げさせて頂きます。
しかしながら、これだけは先に言っておきますよ……
せっかくつくった歯車、絶対一度は出力してみて!
感動するから!!
まとめ(参考資料の紹介)
今回は『犬でも描ける』ということで、ド文系のわたくしPOCHIでもできる歯車の設計方法をご紹介致しました。
せっかく歯車を使ってクラフトをするなら、自分の好きなサイズ、好きな柄でやった方が楽しいんじゃないかと思いまして。しかも自作歯車って絶対楽しいじゃん! って思います。
もちろん、出力しないで画面上で組み合わせるだけでも楽しいと思うので、この機会にちょっとチャレンジしてみて頂ければ嬉しいです。何よりPOCHIが報われます(笑)

一回目に出力した歯車たち。こうして見てるだけでテンション上がる
歯車が完成したら、次はいよいよ宝箱に取り付け、クルクル回しましょう。次回の更新もお楽しみに。最後までご視聴ありがとうございました。それでは、あなたに旅の幸運を……!
関連動画はこちら
YouTubeチャンネルに作業動画をアップしています!
高評価ボタンとチャンネル登録で犬小屋軒を応援していただけましたら嬉しいです!